special:スペシャル

小説版「スマガ」第1巻試し読み

小説版「スマガ」第1巻の冒頭部分をドドンと掲載! ゲーム本編とは少し違った表現で語られる『スマガ』を体験せよ!!
15%体験版すらメンドくさいアナタも、これを読んで『スマガ』『スマガスペシャル』の予習だ!

11. Gold Bullet

『ガーネット、こっちは準備OK!』
『こちらも大丈夫です。ミラちゃんは?』
『いつでもどーぞ!』
 星形のバッジ——スターリットから、三人の少女たちの声がする。
『それじゃ、行きます!』
 ガーネットの言葉が合図となって。
『STAR!』スピカが叫ぶ。
『MINE!』ミラが叫ぶ。
『GIRL!』ガーネットが叫ぶ。『AERIAL——SHOOT!!』そして、三人の声が、重なる。
 昼間だというのに、まるで打ち上げ花火のような極彩色の三つの光が乱舞する。
 赤の光は、軽やかに。
 青の光は、涼やかに。
 黄の光は、華やかに。
 放たれた光は、遥かな空に焦点を結び——虚空から、咆哮が轟いた——。
 これは……悪魔の声……? 悲鳴……? あそこに、いるのか?
 彼女たちは、見えない敵と戦っているのか?
 赤い光が大空を舞う。
 変則的な機動で相手を攪乱しながら、優雅に弧を描く赤い光弾を連射する。
 青の光が光線を放つ。
 冷徹な狙撃手のように、幾筋もの青い光条が、精確に、規則的に空を貫く。
 黄の光が突撃を行う。
 自らを黄金の弾丸に見立て、立ち塞がる全てを粉砕すべく、突進していく。
 わずかな間をおいて——突然、空が爆発した。

12. 偽装

 一際大きな咆哮が轟く。
 そこに混ざるこれまでにない声色の正体は、無念の想いか、怨嗟の憎しみか。
 悪魔の姿が見えていないオレでもわかる。敵を倒したのだ。
「やったか!」と快哉をあげるオレ。
 なのに……。
 再び、空を、大気を、震わせる咆哮が響いて、オレは耳を塞ぐ。
『な……もう一匹いた? なんで!?』
『ミラちゃん、戻って! 罠よ! 私たちの行動パターンが、学習されてる!』
 会話から察するに……二匹目の敵が現れたらしい。
 再度、交戦に入る三つの光。だが……赤と青の光が、心なしか弱くなったように思える。最初の一体を倒すのに、力を使いすぎたとか? 一体目は、そのためのオトリだった?
 敵の放つ黒い球体を回避する三人。防戦一方なのがわかる。
 だけど、そんな中、果敢に赤の光が敵に接近しようとする。まて、無謀だ。
『スピカちゃん!! いったん退いて、体勢を立て直しましょう!』
 そうだ、危ない! やめろって……。
『ここで退いたら、間に合わない!!』
 え? 何を? 間に合わないって何に? いいやわかっている。決まっている。オレだ。オレを助けるのが間に合わない。つまり、あいつはオレを助けるために無謀な突撃をやらかしているのだ。見ず知らずのオレのために。
「まて、やめろ!」
 スターリットに叫ぶオレ。だけどスピカからの返答はない。

13. 犠牲の覚悟

 輝きを増した赤い光に、黄色の光が追随する。慌てた様子で援護する青。
 スピカは、新たな悪魔を挑発するかのように、曲芸みたいに飛び回る。
 虚空から、憎々しげな咆哮とともに、無数の黒い弾丸が彼女に向かって飛んだ。
 きっと、それが隙となったのだろう。
 スピカが攻撃を引きつけた刹那、ガーネットが放つ青の光線をつゆ払いにして、ミラが、再び金色の砲弾となって突撃していく。新たに巨大な爆発、そして爆音の中から、断末魔の叫びが漏れる。やった——今度こそ、倒したはずだ。
 だけど、赤の光ときたら、まるで敵を倒したことなんてどうでもいい、と言わんばかりの様子で、今度は全力で高度を下げ始める。
『ス、スピカちゃん!? そんなに加速したら!』
 ガーネットが悲鳴みたいな警告。自由落下するオレはもちろん、先程悪魔が放った黒い球体の速度も超える、猛烈なスピードでオレに向かって飛んでくる。
 つまり地面に向けて。
「いや、もう、いいよ。地面すぐそこだし。間に合わない」
 オレは妙に冷静に、判断して言た。常識外れの展開の連続で頭のどこかが麻痺したか。
『絶対間に合わせる!!』
 だけど、スターリットから、そんなオレを叱りつけるようなスピカの大声。
「来るなって!! やめろってば! 人の話聞け!! 話せばわかる!!」
 だから、オレは焦る。たとえ間に合っても、ガーネットの言葉どおり、この高度とあの速度じゃ減速が間に合わない。だからオレは叫ぶ。
「おまえら命を懸けてあいつらと戦ってるんだろ! なんか知らないけどヤバいやつで、戦えるの、おまえらだけなんだろ。おまえらがどんな世界に住んでて、どんな理由で戦ってるのか、全然知らないけどさ。おまえら、世界を守ってるんだろ? だから、お前は死んじゃだめだって。これからも、世界を守ってやれよ!」
 自己犠牲とか、そういうカッコイイもんじゃない。
 それは違う。絶対違う。
 だけど、彼女たちが必死になって戦う姿を見ていれば、それくらいはわかる。彼女たちには使命がある。守るべきものがある。だから、彼女たちを殺しちゃいけないって。

14. Great Ending

 だけど、そんなオレの説得を聞き流し、スピカは問答無用とオレを追いかける。
『なんで、そんなこと言うのッ!?』
 だけど。オレの言葉は、彼女の声にかき消される。
『アンタ、悪魔じゃないんでしょ!? ただの人間なんでしょ!? こんなところで終わっていいの!? このまま人生終わっちゃってそれでいいの? まだたくさんやりたいことあるでしょ? やってないことばっかりでしょ!? 遊びたいし腹を抱えて笑いたいし幸せになりたいし恋だってしたいし、こんなところで終わりなんてそんなの嫌でしょ!?』
 視界の中で、彼女が大きくなる。その肩が、マントの下からのぞく制服が、血に染まっていた。オレと同い年くらいの子が、こんなに傷つきながら、それでも戦っているのだ。
 彼女には戦う理由がある。守るべきものがある。
 そんな彼女を記憶喪失のただの一般人のオレのために殺しちゃいけない。
「だから、オレのせいでおまえが死ぬのはもっと嫌だ」
『————ッ!!』
 その一言で、スピカは、減速するどころか、一層加速した。
「バカッ! 何して——!」
『アタシだって嫌! こんな思いして戦って、あなた一人助けられないのは嫌なの! 誰かが死ぬのなんて、もう見たくないの!』
 そして続く言葉はもう、スターリットごしではなく、直に告げられた。
「アタシのせいで、死んでほしくない」
 彗に乗った彼女が、オレの身体を抱き寄せる。
 まるで母親に抱かれる赤ん坊のように、強く強く、抱きしめられる。
 ふわりと、自分とは違う匂いが、鼻孔をくすぐった。
「——でも……ダメかも——」
 悲しげで、少しだけ諧謔を含んだ声が、仄かな息の感覚とともに、耳元に告げられた。

15. 激突、そして——

 地面は本当にもうすぐそこで、彗は加速しきっている。
 彼女は懸命に制動をかけているようだけど、間に合わないのは明らかだった。
「ダメっぽいな」
 不思議と冷静な気分でオレは応えた。一人じゃないからかもしれない。側に誰かがいてくれる。柔らかな身体と、暖かな体温は、死の恐怖を少しだけ、和らげてくれる。
 ——でも、こいつはどうなんだろう。
 いきなり、オレみたいなやつと死ぬハメになって、後悔しないだろうか。
「あのね……あの……」
 そんな思考が、頭をかすめた時、彼女が、まるで大切な告白でもする時のように少し、だけ言いよどんでから、こう言った。
「……ホントはアタシ、魔女になんてなりたくなかったの。好きでもないのに命を懸けて、見返りは何にもなくて、ただ仲間たちが死んでいくだけで——そんなの嫌だった」
 絶対に秘密にしておかなければならなかったけど。
 本当は誰かに話したくて話したくて仕方がなくて。
 でも、もう隠す必要もなくなったから、最期の最後に白状した……。
 まるでそんな感じで、彼女はオレに告げた。
 でも、じゃあ、なんで、その、えとわーるに? なんでこんなに傷ついてまで戦ってるんだ? だけど、オレのそんな疑問は、続く言葉に永遠に打ち消された。
「ね、キスしよう」
 轟々と耳を叩く風の音に、聞き間違いかと思ったけど。
「最期だし。初めてだし」
 その細く長い指が、オレの目蓋に触れる。視界がそっと閉ざされる。暗闇の中、風の音だけが鳴り響く世界で。
「記念にとっといて」
 彼女の声がそっと鼓膜を震わせた。
 唇に、柔らかく、少し濡れた感覚があった。
 きっと、オレも初めてだったんだろうな、なんて、記憶もないくせに、なぜか思って。

 そして。 激突した。

  1. 第一回
  2. 第二回
  3. 第三回
  4. 第四回
  5. 第五回
  6. 第六回
  7. 第七回
  8. 第八回
  9. 第九回

“大樹連司”先生の描く小説版「スマガ」全3巻も読もう!

ガガガ文庫「スマガ(1)」 ガガガ文庫「スマガ(2)」 ガガガ文庫「スマガ(3)」

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