special:スペシャル

小説版「スマガ」第1巻試し読み

小説版「スマガ」第1巻の冒頭部分をドドンと掲載! ゲーム本編とは少し違った表現で語られる『スマガ』を体験せよ!!
15%体験版すらメンドくさいアナタも、これを読んで『スマガ』『スマガスペシャル』の予習だ!

6. 魔女というか魔法少女

『ちょっと! ミラちゃんまで! 二人とも、何してるの!? それにもう一人いるけど!』
「ミラが逆さまになって悪魔のもみあげをもみあげてる感じかな」
 どうやら最初に現れた子がスピカ。こっちの小さい子がミラ。そんでバッジでの会話の相手がガーネットらしい。そして、そのスピカという子の言葉に——。
『悪魔! 今すぐ二人から離れて観念なさい!』
 怒鳴り声が星形バッジから吐きだされ、そして次の瞬間!
 青い光が、オレの視界を染めた。何かがものすごい勢いですぐ近くを通過していった。
 衝撃に、吹っ飛ばされてくるくる回るオレの体。
 板野サーカスみたいに激しく回転する視界の中、側をかすめた青いビーム的な何かが、眼下の海原に着弾! 盛大な水柱がそそり立った。津波も起こる。沖に停泊されている船が木の葉のごとく揺さぶられる——ヤバ。こいつら、マジ、ヤバ。
 魔女なんて言うから、もっとファンシーでハートフルなもん想像してた。あなたのお困りごとをなんでも解決! 人間界に夢と希望をとり戻します的な。
 だけど違う。そんなもんじゃない。こいつらは、アレだ、ディバインなんちゃらとかスターライトなんちゃら的な、大きなお友達大喜び! 方面の魔法少女だ。

7. 無理ゲーを抜けると、そこは

「あ、ガーちゃんだ」と、小さい方の女の子——ミラが空の一点を指させば、遥か遠くから、青い光が接近してくる。目をこらせばやはり彗に跨った女の子だとわかる。
 てか、さっきはあんな遠くから撃ったのか? 当たったらどうすんだよ!
 近づいてくる女の子の姿は、三角帽子にマントと彗は他の二人と同じ。はちきれそうな胸が、外套の下からのぞく。下に着ているのは他の二人と違い、ジャージのようだ。
「さっきのは警告射撃ですが、離れないと、今度はあなたを撃ちます!」
 って、うわ、邪な視線を覚られたかもしれん!
 この眼鏡の子が、ガーネット、なのだろう。眼鏡の奥の瞳が、強く、こちらを睨みつけている——だけど、なんだか似合わない表情だ。無理して、怖い顔をしているような……じゃなくて。撃たれる? まずいって!
 オレはソクラテスじゃないので冤罪で死ぬなんて御免である。だから必死に弁明。
「オレは悪魔じゃない! ただの記憶喪失! そもそも、えとわーるって何? ぞでぃあっくって食べれる? くらいの一般人! 気がついたら落下してて……」
 ガーネットの彗の先がチャージ中の波動砲のように、攻撃的な輝きを増す。
 だんだん小さくなるオレの声。
「み、認めよう! 自分でも無茶だと思う! でも助けてくれ! オレは悪魔じゃない!」
「はーい! お助け魔女が助けるよ! ミラちゃんの手に掴まってねー」
「おいおい、騙されてどうするよ、アンタ」
「そうです! こんな怪しい一般人、いるわけがありません。悪魔に決まってます」
「だから! そうじゃなくて、オレは! ただの記憶喪失の一般人!」
 無理ゲーの次は、ループゲーの始まりだった。

8. もみー

 悪魔だ→違う→じゃなんだ→一般人だ→そんな一般人どこにいる、悪魔だの無限ループ。
「むむむむむむむむむむ…………もみ————ッ!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああ!!」
 埒のあかない会話にキレたか。ミラが突然叫んで、オレのもみあげをグリグリする。
「くんくん……くさい。でも、嘘をついてる匂いはしない」
 な、何するんだいきなりと思ったが——もみあげの匂いでわかるのかよ。
「む……ミラがそう言うなら、そうかもしれないけど……」
 と、スピカ。わかるらしい。そういう特異な能力の持ち主のようだ……まあ魔女だしな。
 とにかく何でもいい、これでオレが悪魔じゃないって証明されたろ? さあ早く助けてくれ、と言おうとして——その刹那——大気が震えた。
 突如、鳴り響いた、獣の雄叫びのような声。
 それは、音というより、もっと直接的な空気の振動と化してオレの肌をビリビリと震わせる。思わず、耳を両手で塞ぐ。
 ヤバイ。頭で考えなくてもわかる。何か、ヤバイもんが、来た。
 オレをとり囲んで、あーだこーだと言い合いを続けていた魔女たちの雰囲気が、一気に緊張する。
 次の瞬間、人の背丈ほどもある漆黒の「何か」が、ものすごいスピードで、オレたちの直近をかすめ、眼下の街へと落ちていく。そして——。

9. 見えない敵

 着地——というより、それは着弾。まるで大きな爆弾が落ちたように、それは赤く弾けた。黒と赤の爆炎とともに、衝撃波が円形に広がり、街並みが崩れていく。
 再び、上空から雄々しい唸りがあがる。
 間違いない。オレより上の空に、何かがいる。
 そして、今のは、それからの……攻撃?
 だけど——声が聞こえた方の空を見上げても、何も見えなかった。
「お、おい!? 今の声、何だ——」
 慌てて周囲の魔女たちに聞こうとするが——その姿は、既にない。
 オレはまた独りぼっちで空から落ちていた。
 赤、青、黄の光点が高度を上げていく。どうやら、行ってしまったらしい。
「ちょ、ちょっと、おい……一体何なんだよ……もしかして置き去り……?」
『あれが本物の悪魔よ。本体は、魔女にしか見えないけどね』
 呆然として呟くと、離れていったはずの——スピカの声。どっから!?
『アンタの側に、落ちてるでしょ。星形のヤツ』
 あ。帽子についてた星形バッジがオレのすぐ近くを、一緒に落ちていた。

10. Make The Pledge

『スターリットっていうの。通信機。場所もわかるから持ってて』
「あ、ああ。で、今のは一体……? あれが悪魔ってやつなのか!?」
『詳しく説明してる暇はないの! 今は手が離せないけど、絶対あとで助けるから!』
 切羽詰まった口調。なるほど、彼女たちの言う悪魔——悪魔が本当に現れて、だから、オレは悪魔じゃないって納得してくれたらしい。でも、問題は……。
「いや、でも、もう結構地面が——」
 迫っていた。このままだとあと数分で激突だ。空気抵抗が最大になるよう、四肢を広げてじたばたするが、んなもん、焼け石に水。だけど。
『お願い!』だけど、それでも、彼女は言った。『アタシを、信じて』
……。
オレは記憶喪失だ。いきなり空から落ちていたら悪魔呼ばわりされて、突然、下の街が爆発し、戦いが始まった。何がなんだか、サッパリわからない。けれど——、
「……ちゃんと、迎えに来いよ」
なぜだか、彼女は信じられる気がした。
『アリガト』
そして、オレが彼女を信じたことが、彼女にも伝わった気がした……。

  1. 第一回
  2. 第二回
  3. 第三回
  4. 第四回
  5. 第五回
  6. 第六回
  7. 第七回
  8. 第八回
  9. 第九回

“大樹連司”先生の描く小説版「スマガ」全3巻も読もう!

ガガガ文庫「スマガ(1)」 ガガガ文庫「スマガ(2)」 ガガガ文庫「スマガ(3)」

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